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福岡地方裁判所 昭和53年(行ウ)15号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

本判決が地方公営企業職員の勤務関係が基本的には公法上の関係であつて、同職員に関する就業規程(就業規則)の法的性質が法的規範であるとするのは、福岡地判昭55.4.15(本誌四二七号一二〇頁、労民三一巻二号五一〇頁)の判断を踏襲している(本誌のコメント参照)。

年末年始の休日(法定外休日)の出勤義務、その拒否闘争を理由とする懲戒処分(有効)についての判断は、昭和四四年のそれに関する北九州市水道局事件・福岡地判昭56.6.29労判三六六号カード(単純労務職員)、同市病院局事件・福岡地判昭56.6.30労判同、同市清掃局事件・同地判昭56.8.24労判三七〇号カード(単純労務職員)と同旨である。

【判旨】

一原告らがいずれも北九州市病院局に所属する地方公務員で、原告岸川が同市若松病院に勤務する薬剤師であり、その余の原告らが同病院に勤務する看護婦、準看護婦であつて、地方公営企業の職員であること、被告が北九州市病院事業の管理者であつて、病院事業として市立の門司病院、小倉病院、若松病院、八幡病院、戸畑病院の各総合病院及び結核療養所松寿園を経営管理し、原告らの任免権者であること、被告が原告らに対し昭和五三年二月八日付で本件各処分<編注・減給二分の一日二名、戒告六名>をなし、そのころ原告らに対し右各処分を告知したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、被告の抗弁につき判断する。

1 本件年末年始勤務拒否に至る背景

(一) 昭和五一年度の年末年始勤務拒否

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、他に同認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 市立若松病院においては、昭和五〇年度まで市病院事業管理者である病院局長の承認を得ずに年末年始期間中の宿日直勤務者に対して宿日直勤務手当のほかに宿日直中の実働の有無にかかわらず一律に一一時間分の時間外勤務手当を支給し代休まで与えるという運用がなされていた。この事実が昭和五一年度になつて病院事業の財政再建計画を促進するため病院局内に設けられたプロジェクトチームの調査結果により判明したので、病院局長は、右の運用を是正することにした。そして、病院局長は、年末年始の勤務を必要とする医療従事者の特殊性及び他の市立病院との均衡をも考慮して昭和五一年度から新たに年末年始の勤務者に対し年末年始加算金一八〇〇円を支給する制度を設け、その代りに前記運用を是正するとともに従前から行われてきた現物支給を全廃することを組合側に提示した。

これに対し、病院評議会は、病院局との団体交渉において、右加算金制度の新設はともかくとして前記運用を前提とする一定時間の時間外勤務手当を保障せよと主張して譲らず、従来と同様に市立若松病院での右運用の継続を強く要求し、若し組合の要求が認められない場合には同病院における昭和五一年度の年末年始の勤務を拒否するとの構えをみせていた。

(2) 病院局は、組合側の右要求を拒否したところ、病院評議会は、これを不満として市立若松病院外来診療部門において昭和五一年度年末年始の勤務を拒否した。

そこで、病院局長は、昭和五二年三月一九日付で昭和五一年度年末年始勤務を拒否した原告谷本、同山根ほか一名を文書訓告に処した。

(二) 本件年末年始勤務拒否に至る経緯

(1) 病院局における交渉経過

病院局が昭和五二年度の年末年始勤務に関する労働条件について病院評議会及び病院労組と五回にわたり交渉を重ねた結果、昭和五二年一二月二六日に至つて病院労組とは合意に達したものの、病院評議会とは合意に至らず物別れとなつたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠>を総合すると、右交渉の際、病院評議会は、昭和五一年度に引き続き年末年始休日期間中の宿日直勤務者について一定時間分の時間外勤務手当(いわゆるヤミ超勤)を保障せよとの要求を蒸し返し、病院局当局が右要求に応じられないと回答したため、交渉が決裂したこと、昭和五二年度の年末年始休日の勤務に関する労働条件で昭和五一年度のそれよりも向上した点をあげれば次表のとおりであり、そのうちタクシー料の補助については、昭和五二年度からの夜間看護手当制度の新設に伴い廃止すべきところを組合側の要望を容れて前年度どおりの方式を踏襲したことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

区分

五一年度額

五二年度額

増額分

宿日直勤務手当

二、一〇〇円

二、三〇〇円

二〇〇円

年末年始出勤加算

二、〇〇〇円

二、三〇〇円

三〇〇円

年末年始加算額

一、八〇〇〇円

二、二〇〇円

四〇〇円

タクシー料の補助限度額

七〇〇円

八〇〇円

一〇〇円

(2) 市立若松病院における交渉経過

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、他に同認定を覆すに足る証拠はない。

(イ) 第一回院内交渉

第一回目の院内交渉は、昭和五二年一二月一六日、病院評議会から原告内田(病院評議会議長)及び同岸川(病院評議会事務局長)の両名が出席して事務折衝という形式で行われたが、組合側から昭和五二年度の年末年始勤務に関する労働条件についての組合側の要求内容及びこれに関する病院局交渉の経過等について説明がなされ、特に組合としては昨年に引き続き宿日直勤務の勤務化(実働のある勤務として時間外勤務手当を支払うこと。)を最重要課題として要求しているので、当局としても誠意ある回答をするよう要請がなされた。これに対し、当局は、年末年始に関する労働条件については病院局交渉で決定することになつており、現在病院局で統一交渉中であるので若松病院独自で回答することはできない旨答えて、交渉を打ち切つた。

その際、原告内田は、「宿日直について改善されないなら外来はもめるぞ。」「宿日直を勤務化せよ。また、宿直について一定の睡眠時間を保障せよ。若松病院では不法処分の問題もあるので、何らかの改善が図られないなら昨年以上の混乱が起こるぞ。」などと発言し、組合として要求実現のためには昨年に引き続き年末年始勤務を集団的に拒否することも辞さずとの講えをみせていた。

(ロ) 第二回院内交渉

第二回目の院内交渉は、同月二七日午後四時二〇分ころから開かれたが、当局が同日午後三時五〇分すぎから「昭和五二年度年末年始勤務表」を同病院各科に掲示して年末年始勤務に関する勤務命令を発したことに対する組合側の抗議行動となつた。病院評議会から「年末年始の勤務命令について」と題する申入書が提出され、「勤務条件が折り合わないのに、なぜ勤務表を作成しこれを掲示して勤務命令を発したのか。事前に出勤不能の申告書を提出しているのにこれを無視するのか。」などと激しく抗議がなされ、勤務表(勤務命令)の徹回を強く求められたが、当局は、「勤務表(勤務命令)は年末年始休日期間の病院業務を正常に運営するために発したものであり、これを徹回するつもりはない。」などと回答した。これに対し、病院評議会議長である原告内田は、「病院局の指示でもこのような不合理をやると大事になるぞ。」「このような状態では他病院でも問題が起こつてくるぞ。年末年始出勤に対しては不満が強い。」などの強硬な発言を続け、勤務命令の徹回について再考しないならば年末年始勤務を拒否するとの態度を示した。

(ハ) 第三回院内交渉

第三回目の院内交渉は、同月二八日午後一時四〇分ころから若松病院長出席のもとに開かれ、病院評議会から「申告書に対する対応の時間も十分あつたはずなのに申告の理由を全く無視して一方的に勤務表を降ろしてきたが、これでは個人の事情は全く無視されている。勤務表は当局側が一方的に作成したものであつて、これに従うわけにはいかない。看護婦長が日直できない理由はない。くじを引いたが、何も勤務に就くとはいつていない。悪用するなら今後はくじ引きをしない。話し合いにより合意したのであれば別だが、一方的に勤務表を組み、協力してくれといわれてもそれはできない。」などと申告書の取扱い及び勤務命令について激しい抗議がなされた。これに対し、当局は、「今回の勤務命令については病院局とも意見を調整のうえ最終的に決定したものであつて再考の余地はない。年末年始の勤務条件については病院局で決めることになつており、他病院においては申告書も出ておらず正常に勤務が予定されている。若松病院では外来看護婦一二名(手術場勤務の看護婦七名を除く。)のうち、二名が病気等で出勤できず、六名が事情により年末年始期間中は全く勤務できないと申告書に提出していて支障者が過半数を超えており、これでは勤務をカバーすることができず明らかに異常な事態である。従来からお互いにカバーしあつて勤務が遂行されてきており、看護婦長もそれぞれ宿日直勤務を割り当てられている。各人の出勤できない理由を聞いたが、あの程度の理由は病棟勤務者を含めて他の病院でも起こりうることである、年末年始のことだし全て認めておれば病院の正常な運営は成りたたない。年末年始の問題は一二月二六日に病院局交渉で終わつており、当病院でもそれぞれくじ引きで予定日を決めておるので、予定どおり勤務されたい。」などと反論して組合側の協力を求めたが、組合側は抗議を繰り返すだけであつた。そこで、田中事務局長は、このまま交渉を続けても組合側の協力が得られないと考え、また、年末年始勤務を翌日に控えて時間的にも余裕がないと判断し、「昨日勤務表によつて勤務命令を出しているが、改めて今から職務命令を出す。」旨を組合側に通告したところ、原告内田が「そんなことをしたら大事になるぞ。」と発言し、交渉は決裂した。

(三) 市立若松病院において本件年末年始勤務命令が出された経緯

市立若松病院看護科においては年末年始の勤務について従来から全員によるくじ引きで勤務日を決めており、昭和五二年一二月一〇日に同年度の年末年始勤務についてのくじ引きが行われ、その後に個人交替がなされた結果、同月二二日までに確定していた原告岸川を除くその余の原告らの勤務日が被告主張のとおりであつたこと、同病院薬剤科における年末年始の勤務日の決め方は年間の休日の日直勤務を全職員の順送りで決めており、同年度もこの方法で職員の勤務日が予定されていたので、原告岸川の勤務日が同月三一日の日直勤務に確定していたこと、同月二二日になつて原告らが年末年始の勤務ができないという理由を書いた申告書を提出したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

そして、<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、他に同認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 同月二一日午後四時ころ、松本看護婦長から中島総看護婦長に対して「中央手術室の看護婦が年末年始の勤務については各自の決まつた日以外は勤務しないとの署名をしている。」との報告がなされたので、当局で調査したところ、当日、同病院中央手術室には病院評議会若松病院分会の組合役員である松本雅裕が、同病院外来看護科には同評議会事務局長である原告岸川がそれぞれ出向き、右各職場に勤務する看護婦らに対して右と同趣旨の署名に協力するよう説得していたことが判明した。

同月二二日午前九時二五分ころから午後四時四〇分ころまでの間に同病院外来部門所属の看護婦一九名のうち二名(そのうち一名は病気のため勤務免除)を除く一七名が年末年始勤務について出勤不能との申告書を提出してきたが、その提出の際の状況は、次のとおりであつた。

(イ) 同月二二日午前九時二五分ころ、産婦人科外来前廊下で看護婦平山敦子が酒井外来看護婦長に対して「自分の勤務日は出て来ます。」と言いながら右趣旨の申告書を提出した。

(ロ) 同日午前九時三五分ころ、皮膚科外来において原告内田が酒井外来看護婦長に対して「総婦長に渡してください。谷本さんの分も頼まれた。」と言つて同原告と原告谷本の右趣旨の申告書を提出したが、その際、原告内田は、「外来婦長に他意があつてこのようなことをするのではないが、たとえ外来婦長といえども個人的に詮議しないでいただきたい。」と述べていた。更に、原告内田は、同日午前九時四五分ころ、中央材料室前において松本外来看護婦長に対しても「酒井婦長にも話したが、今から個人的に申告書が出る。これはあなた方に他意あつてのことではない。今まで積み重ねてきたものは組織として守つて行かなければならない。申告書については外来婦長といえども個人的にいろんな詮索はしないでいただきたい。」などと申し入れた。

(ハ) 同日午前一一時二八分ころ、原告佐藤が総看護婦長室を訪れて松本外来看護婦長に対し年末休日勤務不能との申告書を提出した。

(ニ) 同時刻ころ、手術室勤務の看護婦岩崎明代が手術室看護婦長矢野民子に対して同室勤務の看護婦七名分の年末年始勤務不能との申告書を提出した。

(ホ) 同日午後二時二三分ころ、中島総看護婦長が帰室すると机上に外来看護婦高倉昭世の申告書が置かれていた(当時、同看護婦は病気のため年末年始の勤務が免除されていた。)。

(ヘ) 同日午後四時四〇分ころ、原告山根及び同渡辺が総看護婦長室を訪れて松本外来看護婦長に対して外来看護婦五名(原告山根、同渡辺、同岡村、同矢野及び新庄弘子)分の年末年始勤務不能との申告書を提出した。

同病院薬剤科においても、同日、前田薬剤科部長に対して薬剤師二名(原告岸川及び安部利昭)及び薬剤科助手一名(南部弘美で、同人は年末年始勤務が免除されていた。)がそれぞれ年末年始休日勤務不能との申告書を提出した。

当局は、右申告書の取扱いについて院内で検討し、また、病院局とも協議した結果、このような集団的な申告を認めていたのでは年末年始休日期間中の病院事業の正常な運営ができないこと、勤務日を決めるにあたつては職員の希望を十分斟酌した従来からの慣行に従つたことなどを考慮して、右の申告には応じられないとの方針を決定した。

(2) 当局は、病院評議会に対して年末年始勤務についての協力を求めていたにもかかわらずこれを拒否され、このまま推移してもその協力が得られないであろうこと、年末年始勤務が迫まつていて三交替勤務者の多い病院としては少なくとも二日前(一二月二七日)には勤務表を掲示し勤務命令を出して職員に周知徹底させておかねば年末年始休日期間の病院業務の正常な運営が望めないと判断して、同年一二月二七日午後三時五〇分ころから「昭和五二年度年末年始勤務表」を市立若松病院各科に掲示するとともに口頭で各職員に伝達し、同年度の年末年始に関する勤務命令を関係全職員に周知徹底させた。そして、特に勤務不能の申告書に子らの保育を理由としてあげている看護婦らに対しては「当日は保育所も開所しているので出勤するよう。」促した。また、原告山根及び同谷本が当日休みであつたので、松本、酒井両外来看護婦長が電話で右原告ら両名に対し「保育所も開所するので出勤するよう。」命令した。しかし、勤務命令を受けた看護婦及び薬剤師らはいずれも「申告書のとおりです。勤務できません。」と言つて勤務を拒否する旨を明らかにした。

(3) 右状況からこのまま推移すれば市立若松病院の年末年始休日期間中の業務の運営に支障を来たすことがあると予想されたので、病院局長は、同月二八日午後二時三〇分ころから同病院外来診療部門における右期間中の勤務予定者全員に対し、再度、就業規程一二条に基づく休日勤務命令書及び同規程一五条に基づく宿日直勤務命令書を各所属長を通じて交付し(但し、原告山根及び同谷本に対しては電報により告知した。)、前記「昭和五二年度年末年始勤務表」のとおり病院業務に従事するよう休日・宿日直勤務命令を発した。

2 本件年末年始勤務拒否の状況

<証拠>を総合すると、本件年末年始拒否の状況及びこれによる業務阻害の状況は、次のとおりであることが認められ、他に同認定を覆すに足る証拠はない。

(一) 昭和五二年一二月二九日の状況

同日は市立若松病院の一般的な年末年始勤務の日であつたが、看護科外来の日直勤務予定者であつた原告山根が子らの保育及び帰省を理由として勤務を拒否し欠勤したため、残りの日直勤務の看護婦一名で昼間の外来患者一一名(うち二名が入院)に対応し、患者の検査が必要となつたので臨床検査技師一名を呼び出して業務を処理した。

同病院の院内保育所は通常どおり開所され、申し込みがあれば直ちに受け入れられる状態であつたが、当初の保育申込者以外から追加申し込みはなかつた。

(二) 同月三〇日の状況

同日は同病院の小児科応需の日であつたが、休日勤務予定者3.5名(0.5名は午前半日勤務)のうち原告山根(午前半日勤務)が前日に引き続き右同様の理由で、原告佐藤が健康上の理由をあげてそれぞれ勤務を拒否し欠勤したため、看護婦二名で昼間の外来患者一三五名(うち二人が入院)に対応せざるを得なかつたので診療業務が遅滞した。なお、来院患者が非常に多かつたため内科医師一名を呼び出して勤務に就けた。

同病院においては、保育の申し込みに備えて臨時の保母一名を雇い待機させ、午前八時から午後一時まで院内保育所を開所したが、申し込みはなかつた。

(三) 同月三一日の状況

同日は同病院の一般的な年末年始勤務の日であつたが、薬剤科の日直勤務予定者であつた原告岸川(薬剤師)が帰省を理由として勤務を拒否し欠勤したため、一時、薬剤科が無人状態となり調剤業務ができなくなつたので、急遽、大塚保雄薬剤科副部長を呼び出して業務を処理せざるを得なかつた。

(四) 昭和五三年一月一日の状況

同日は同病院の一般的な年末年始勤務の日であつたが、看護科外来の日直勤務予定者二名のうち原告谷本が幼児の保育及び諸々の事情を理由に、原告矢野も子らの保育及び家事の都合を理由としてそれぞれ勤務を拒否し欠勤したため、看護科外来が無人状態となつたのでやむを得ず医師及び総看護婦長が直接に昼間の外来患者六名に対応して業務を処理した。

同病院においては、保育の申し込みに備えて臨時の保母一名を雇い待機させ、院内保育所を開所したが、保育の申し込みはなかつた。

(五) 同月二日の状況

同日は同病院の年末年始勤務及び小児科応需の日であつたが、看護科外来の休日勤務予定者3.5名のうち原告内田が帰省を理由に、原告岡村が子らの保育を理由に、原告渡辺が家事の都合を理由にそれぞれ勤務を拒否し欠勤したため、午前半日勤務予定の看護婦一名で昼間の外来患者三五名に対応せざるを得なくなり、人手不足のため医師が直接患者に対応するなど診療業務が遅滞した。

同病院においては、臨時の保母一名を雇つて待機させ、院内保育所を開所したが、保育の申し込みはなかつた。

3 原告らの違法行為とその懲戒責任

(一) 原告らの違法行為

(1) 原告谷本が市立若松病院看護科に勤務する准看護婦で病院評議会に所属する組合員であつたところ、本件年末年始勤務に際し昭和五三年一月一日出勤しなかつたことは当事者間に争いがなく、前記1(三)、2(四)で判示したとおり、同原告は、就業規程一五条に基づき同日は同病院に出勤し看護科外来の日直勤務を遂行するよう勤務命令を受けていたにもかかわらず、同日はこれに反して出勤せず右の命ぜられていた職務を全く行わなかつた。

(2) 原告山根が同病院看護科に勤務する准看護婦で病院評議会に所属する組合員であつたところ、本件年末年始勤務に際し昭和五二年一二月二九日及び同月三〇日出勤しなかつたことは当事者間に争いがなく、前記1(三)、2(一)、(二)で判示したとおり、同原告は、就業規程一五条に基づき同月二九日は同病院に出勤し看護科外来の日直勤務を遂行するよう勤務命令を受けていたにもかかわらず、同日はこれに反して出勤せず右の命ぜられていた職務を全く行わず、また、同規程一二条に基づき同月三〇日は同病院に出勤し看護科外来の休日勤務を遂行するよう勤務命令を受けていたにもかかわらず、同日はこれに反して出勤せず右の命ぜられていた職務を全く行わなかつた。

(3) 原告岸川が同病院薬剤科に勤務する薬剤師であつて病院評議会事務局長の組合役職にあつたところ、本件年末年始勤務に際し昭和五二年一二月三一日出勤しなかつたことは当事者間に争いがなく、前記1(三)、2(三)で判示したとおり、同原告は、就業規程一五条に基づき同日は同病院に出勤し薬剤科の日直勤務を遂行するよう勤務命令を受けていたにもかかわらず、同日はこれに反して出勤せず右の命ぜられていた職務を全く行わなかつた。

(4) 原告矢野が同病院看護科に勤務する准看護婦で病院評議会に所属する組合員であつたところ、本件年末年始勤務に際し昭和五三年一月一日出勤しなかつたことは当事者間に争いがなく、前記1(三)、2(四)で判示したとおり、同原告は、就業規程一五条に基づき同日は同病院に出勤し看護科外来の日直勤務を遂行するよう勤務命令を受けていたにもかかわらず、同日はこれに反して出勤せず右の命ぜられていた職務を全く行わなかつた。

(5) 原告渡辺が同病院看護科に勤務する准看護婦で病院評議会に所属する組合員であつたところ、本件年末年始勤務に際し昭和五三年一月二日出勤しなかつたことは当事者間に争いがなく、前記1(三)、2(五)で判示したとおり、同原告は、就業規程一二条に基づき同日は同病院に出勤し看護科外来の休日勤務を遂行するよう勤務命令を受けていたにもかかわらず、同日はこれに反して出勤せず右の命ぜられていた職務を全く行わなかつた。

(6) 原告佐藤が同病院看護科に勤務する准看護婦で病院評議会に所属する組合員であつたところ、本件年末年始勤務に際し昭和五二年一二月三〇日出勤しなかつたことは当事者間に争いがなく、前記1(三)、2(二)で判示したとおり、同原告は、就業規程一二条に基づき同日は同病院に出勤し看護科外来の休日勤務を遂行するよう勤務命令を受けていたにもかかわらず、同日はこれに反して出勤せず右の命ぜられていた職務を全く行わなかつた。

(7) 原告岡村が同病院看護科に勤務する准看護婦で病院評議会に所属する組合員であつたところ、本件年末年始勤務に際し昭和五三年一月二日出勤しなかつたことは当事者間に争いがなく、前記1(三)、2(五)で判示したとおり、同原告は、就業規程一二条に基づき同日は同病院に出勤し看護科外来の休日勤務を遂行するよう勤務命令を受けていたにもかかわらず、同日はこれに反して出勤せず右の命ぜられていた職務を全く行わなかつた。

(8) 原告内田が同病院看護科に勤務する正看護婦で病院評議会議長の組合役職にあつたところ、本件年末年始勤務に際し昭和五三年一月二日出勤しなかつたことは当事者間に争いがなく、前記1(三)、2(五)で判示したとおり、同原告は、就業規程一二条に基づき同日は同病院に出勤し看護科外来の休日勤務を遂行するよう勤務命令を受けていたにもかかわらず、同日はこれに反して出勤せず右の命ぜられていた職務を全く行わなかつた。

(二) 原告らの懲戒責任

右(一)の原告らの各行為は、いずれも地公法三二条に違反し、同法二九条一項一号及び二号の懲戒事由に該当する。

三原告らは、本件年末年始の出勤拒否が休日の労働義務に対する労働者の拒否権に基づく正当な権利の行使である旨主張するので、この点につき判断する。

1 まず、原告らの年末年始休日期間中の出勤義務の存否につき検討する。

地方公営企業法(以下「地公企法」という。)の適用を受ける市病院局勤務の職員である原告らの勤務条件に関し、同法は、給与の種類及び基準は条例で定める(三八条四項)ほかは、勤務時間その他の勤務条件については管理者がその事務を掌理するものとし(九条二号)、管理者は法令又は当該地方公共団体の条例若しくは規則又はその機関の定める規則に違反しない限りにおいて業務に関し管理規程を制定することができるとしている(一〇条)。

他方、地方公営企業職員の労働関係については、原則として地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」という。)が適用されるほか、労働組合法及び労働関係調整法が補充的に適用され(地公労法四条)、労働組合は労働時間、休日その他の労働条件につき労働協約を締結することができるものとされており(地公労法七条)、また、管理者の制定する企業管理規程のうち職員の勤務条件を定めるものについては、就業規則について定める労基法八九条ないし九三条の適用を受けることとなつており(地公企法三九条一項、地公法五八条)、その労働関係につき一般地方公務員と法制上取扱いを異にし、一般私企業における労働関係と共通性を有する面がある。

しかし、地方公営企業職員の身分については、地公労法三条二項が、「一般職に関する地方公務員」と明記しており、しかもその勤務関係の根幹をなす任用、分限、懲戒、服務等については地公法の規定が全面的に適用されている(地公企法三九条一項)点から考えると、地方公営企業職員の勤務関係は、基本的には公法上の関係と解するのが相当である。

ところで、一般地方公務員の勤務条件については条例で定めるものとされている(地公法二四条六項)のに対し、地方公営企業職員の勤務条件については、前叙の地公企法及び地公労法の各関係規定からみて、法は、給与の種類及び基準のみは条例で定めることを要し、その他の勤務条件については条例等に反しない限り管理者の定める就業規程若しくは管理者と労働組合との間で締結される労働協約により規律させようとしていると解される。そして、地方公営企業職員の労働条件については、職員に団体交渉権や労働協約締結交渉権が認められている(地公労法七条)けれども、これらの職員の権利は、企業管理者の本来的に有する勤務条件決定権限に一定限度で制約を加え得るものにすぎず、職員に右の権利があることから直ちに企業管理者の勤務条件決定に個々の職員の同意を要するものと解することができない。したがつて、公法関係である地方公営企業職員の勤務関係において、企業管理者は、条例、労働協約及び労基法の定めに反しない限り就業規程の制定により勤務条件の決定を行うことができ、右就業規程には、私企業における就業規則と異なり地公企法により法的規範としての効力が与えられているものというべきである。

ところで、労基法三二条には労働時間の制限、同法三五条には休日(いわゆる週休制による休日)についての定めがあるけれども、週休制による休日以外の休日(いわゆる法定外休日)に労働者を労働させる場合に関しては、労基法に何らの規定がなく同法による規制が及ばないから、企業管理者の制定した就業規程ないしは労働協約に法定外休日勤務に関する定めがある場合には、労働条件の基準として個々の職員の同意なくして勤務関係の内容となり職員が法定外休日労働義務を負うことになると解するのが相当である。そして、法定外休日労働について就業規程ないしは労働協約において、日時、労働内容、労働すべき者が具体的に特定されている場合には企業管理者の休日出勤命令をまつまでもなくそのとおりの休日労働義務が生じるが、概括的一般的な労働義務が定められているにすぎないときは、企業管理者の出勤命令によつて休日労働義務が生ずるというべきである。この場合、出勤命令により労働を命じられた職員に損失を生ずることもあるであろうから、休日労働を命ずるに当つては、職員の個人的利益を考慮する必要のあることはいうまでもなく、職員に出勤できないことについてのやむを得ない事由があるときは右休日労働の義務を免れることができるけれども、職員は、休日出勤命令を受けた後、休日労働の義務を免れるためには右のようなやむを得ない事由の存在について企業管理者に対し告知することが必要である。なお、職員の告知した事由が出勤しないことについてのやむを得ない事由に該当するか否かは、法定外休日出勤を命ずる企業管理者側の必要性と職員の拒否事由の合理性との利益衡量によつて判断するのが相当である。

そして、企業管理者が労基法施行規則二三条により宿日直の許可を受けている場合には、労基法三六条の協定や個々の職員の同意がなくても休日に職員に対し宿日直を命ずることができ、当該職員がその宿日直義務を免れるためには右と同様の手続と理由を要するものと解するのが相当である。

本件についてこれらをみるに、<証拠>によれば、原告ら市病院局勤務職員に対し適用される北九州市病院局職員就業規程一一条一項二号は一月一日、同月二日、同月三日、一二月二九日、同月三〇日及び同月三一日を休日と定めながらも同規程一二条は「業務のつごうにより必要がある場合」は休日勤務を命じ得る旨の概括的一般的な定めをしているところ、右休日は労基法三五条所定の「休日」ではなくこの基準を上廻つて休日とされているいわゆる法定外休日であつて同法三三条、三六条の制限もないというべきである。そして、右乙第二号証によると、同規程一五条は「管理者は、業務のために必要がある場合には、職員に正規の勤務時間以外の時間または休日において、本来の業務に従事しないで行なう宿直勤務または日直勤務を命ずることができる。」と規定していることが認められ、本件弁論の全趣旨によれば、年末年始の休日期間における宿日直勤務については、通常の休日・夜間の宿日直制度をそのまま実施し、労基法施行規則二三条に基づき所轄労働基準監督署から宿日直の許可基準に適合するものとして適法に宿日直の許可を受けていたものとうかがうことができる。

ところで、市病院局勤務の原告らに対し年末年始休日期間中の出勤を命ずる必要性があつたことは病院事業の性質及び後記2(一)で判示の事情からして明らかであり、前記二1(三)で判示したとおり、病院局長が昭和五二年一二月二七日、二八日の二回にわたり原告らに対し前記「昭和五二年度年末年始勤務表」のとおりに病院業務に従事するよう休日・日直勤務命令を発したことにより、原告らは、右勤務表どおりに本件年末年始休日期間中の休日・日直勤務をすべき義務を負うに至つたというべきである。

2 そこで、原告らが申し出た本件年末年始休日期間中の休日・日直勤務拒否理由についてやむを得ない事由があつたか否かにつき検討する。

(一) <証拠>によると、北九州市の市立各病院の外来診療部門では、一般的な年末年始勤務体制として、急患への対処及び院内の一般保安等のため最少限度の措置として医師、看護婦の宿日直制度を設けていたこと、また、市としては地域住民の健康を確保するため独自に救急医療体制を確立する必要性があつたので休日急患診療センターを設けていたが、休日及び平日夜間の初療が確実に行われるためには第二次医療体制の整備が必要不可欠の前提条件であつたため、市は、昭和五二年当時において市内の国公立病院を主体とする他の病院の協力を得て第二次医療を担当する応需病院を輪番制で編成し、年末年始休日期間中の一日を各応需病院が受け持つことにより同期間の第二次医療体制を確立し救急医療を実施していたこと、市立各病院もこの年末年始期間の第二次医療応需病院の役割を担当し、応需病院に定められた日には一般的な年末年始の勤務体制と異なり休日急患診療センターからの重症患者の転送などに備えてこれに対応できる勤務体制(年末年始応需日の勤務体制)を組んでいたことが認められる。

そして、<証拠>を総合すると、市立若松病院においては、他の市立病院と同様に前述の年末年始勤務体制をとつていたが、このほかに市立若松病院では同病院に勤務する小児科医師の意向により従来から小児科応需の日が設けられ、例年一二月三〇日及び一月二日は小児科が外来診療を行いこれに対応できる勤務体制(小児科応需の勤務体制)が組まれていたこと、昭和五二年度年末年始の同病院の応需日は一月二日と指定されたため、昭和五二年度の同病院の年末年始休日期間中の勤務体制は、一二月三〇日が小児科応需の勤務体制、一月二日が年末年始応需日及び小児科応需の勤務体制、その他の日が一般的な年末年始勤務体制となつたこと、そこで、右の勤務体制に対処するため昭和五二年度の同病院における年末年始勤務体制が前記「昭和五二年度年末年始勤務表」のとおり編成され、これに基づき原告らに対し本件年末年始休日の休日・日直勤務命令が出されたことが認められる。

そうすると、企業管理者である病院局長が原告らに対し本件年末年始休日の休日・日直勤務を命ずる必要性は極めて大であつたというべきである。

(二) 原告らがいずれもその主張のような事由(前記二3(一)で判示にかかる原告らの各拒否理由と同じ。)を理由として本件年末年始の勤務に就けない旨の申告書を昭和五二年一二月二二日に提出したことは当事者間に争いがないところ、前記二1(三)(2)及び二2で判示したとおり、市立若松病院においては、同年度の年末年始休日期間中も院内保育所を開所する旨を周知徹底させ、現実に臨時の保母を雇い待機させるなどして院内保育所を開所し保育の申し込みに備えていたのであるから、右(一)で判示した本件年末年始休日の休日・日直勤務を命ずる必要性に比すると原告らの申出にかかる事由をもつてしては未だ右休日・日直勤務を拒否するに足るだけの理由とすることができない。

のみならず、<証拠>によると、原告岸川は、同年一二月三一日の日直勤務を拒否する理由として妻の実家(和歌山県所在)に帰省することを申告していたが、現実には帰省していないこと、原告内田も昭和五三年一月二日の休日勤務を拒否する理由として実家(四国地方所在)に帰省することを申告していたが、現実には帰省していないことが認められ、この事実に、前記二1(三)で判示したとおり、本件年末年始休日期間中の休日・宿日直勤務を決めるについては全員のくじ引きによりその後に個人交替がなされて確定されたものであること、昭和五二年一二月二二日に至つて原告ら並びに市立若松病院外来看護科勤務看護婦及び同病院薬剤科勤務薬剤師等の大部分が一斉に本件年末年始休日期間中の勤務ができない旨の申告書を提出したが、そのなかには病気のために年末年始勤務を免除されていた者も含まれていたこと、その他右で判示した年末年始に出勤不能との申告書が提出された前後の諸事情を併せ考慮すると、原告らは、昭和五二年度における年末年始休日期間中の宿日直勤務手当についての当局の回答に不満であつたので、これに抗議するため、病院評議会の統制のもとに殊更に理由を構えて右の申告書を一斉に提出したものと推認するのが相当である。

(三) してみると、原告らが申し出た本件年末年始休日期間中の休日・日直勤務の拒否理由についてはやむを得ない事由があつたと認めることができない。

3 したがつて、原告らは、本件年末年始休日期間中の休日・日直勤務義務があつたにもかかわらず、やむを得ない事由なくしてこれを拒否したものであるから、右拒否をもつて休日労働義務に対する労働者の拒否権に基づく正当な権利の行使である旨の原告らの主張は採用することができない。

四原告らは、本件各処分が懲戒権の濫用にあたると主張するので、この点につき判断する。

公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒権者が当該公務員を懲戒処分に付すべきかどうか、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては公正でなければならないが、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果その他諸般の事情を考慮して、懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選ぶかを決定しうるのであつて、それらは懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

そこで、右の見地に立つて、本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くものであるか否かについて検討する。

昭和五二年度の年末年始休日期間中の勤務条件に関する病院局との交渉において宿日直勤務手当についての当局の回答に不満であつたので、市立若松病院の外来看護部門又は薬剤科に勤務し病院評議会に所属する原告らは、同病院において昭和五〇年度まで病院局長の承認を得ずになされてきた宿日直勤務手当等に関する運用(年末年始期間中の宿日直勤務者に対して宿日直勤務手当のほかに実働の有無にかかわらず一律に一定時間分の時間外勤務手当を支給し代休まで与えるというもの。)の継続を強く要求し、その要求を貫徹するため、当局の度重なる説得や勤務命令を無視して同評議会の統制のもとに本件年末年始の勤務を拒否したもので、これにより公共性の極めて高い市立病院の病院業務に遅滞を生ぜしめたことは軽視できない。そして、原告谷本、同山根は、前年度(昭和五一年度)の年末年始勤務に際しても本件同様に勤務を拒否して文書訓告に処せられているにもかかわらず、引き続き昭和五二年度の本件年末年始勤務を拒否したもので、その責任は他の原告らに比して重いといわなければならない。

以上のとおりであつて、原告らの本件各行為の性質、態様、情状その他諸般の事情に照らすと、本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、他にこれを認めるに足る事情も見当らない以上、本件各処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできない。

(辻忠雄 湯地紘一郎 林田宗一)

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